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STORY
ストーリー
この国は、古より人間と吸血鬼が互いに干渉することなく均衡を保っていた。
アリア=ヴァレンタインは吸血鬼でありながら一族となれ合うことはせず、人里離れた土地でひっそりと暮らしていた。近頃、吸血鬼達が人間を襲っているという噂を耳にしたアリアは一族として自分が止めるべきだと奮起し先を急いだ。
一方、神聖団にも同様の情報が入り、未だかつてない事態に街ではパニックが起きていた。
神聖団所属のシャルロット=オリヴィエは、教団からの命により原因を究明すべく吸血鬼の長がいると言われる城へと向かった。
時を同じくして、道中にある街一番の教会付近で大爆発が起こった。
シャルロットは、すぐさま駆け付けると吸血鬼の人陰が群れを成しているのが分かった。
「アリス…」
人陰を一掃したシャルロットが声のする方を振り向くと目の前には赤髪の少女が立っていた。
少し時は遡り…
見習い魔法使いのリリィ=キャンベルが通っているアヴァロン魔術学院では、魔法を習得する目的は勿論のこと、様々な魔法の研究がされていた。
そしてその多くは魔法の更なる向上へと活かされているのだが、そんな中でも或る者は秘密裏に黒魔術の研究を行い、その成果をどうにか形にすべくどこかに良い実験体がいないものかと探し求めていた。
色々な人間に試してみるもののあまり納得いく成果とは言えず苦戦の日々が過ぎていく。
思案の末、次は人間ではなく吸血鬼を標的にしたところ、これが面白いように成功し、吸血鬼達を狂暴化させることで己に湧き上がる欲を満たそうと企むのであった。
「…アリア=ヴァレンタイン!?」 赤髪の少女にしか見えない目の前の人物が“紅蓮の弾丸”と称される彼女だと気付くのにそう時間はかからなかった。
自分の名を呼ばれながらもまるで他人事のように表情一つ変えないアリアと突然遭遇した“紅蓮の弾丸”に何か言いたげなシャルロットだったが、多くを語らずとも互いに相手の目的は自ずと察しがついた。
立ち止まったのも束の間で、アリアは興味ない様子で先を急いだ。
シャルロットも遅れをとらないようにと後を追った。
途中、残る人陰を倒しながらも城に着くと、そこには茫然自失な様子のアリスがいた。
アリスは、気心の知れたアリアすら知らない者のような振る舞いをみせ、敵意を向けてきた。
アリスの自意識ではない騒動だとは思うが、かといってこのまま見過ごすことも出来ない…アリアは、アリスと戦う決意をする。 この銀髪の少女が恐らくではあるが、ヴァンパイアの長だろうと感じ取ったシャルロットも目的を完遂する為に応戦することにした。
戦いの末、アリスは破れ、その身を拘束された。ヴァンパイアの仲間であるアリアとの戦いに敗れたことで自我が戻ったアリスは、己の未熟さと事の重大さからアリアに長を託したいと申し出た。
正直、あまり気は進まないところではあるが、頑なに断る程の理由もなく、“やればいいんでしょ!”と言わんばかりに長の座を譲り受けることに…
アリスの洗脳が解けて数日・・
シャルロットは今回の騒動に関する報告を教団に説明したが、今一度ヴァンパイア討伐の命を受け、アリアの人間性を知ってしまい、討伐するか否かを悩みつつも一先ず城へと歩みを進めているところだ。
一方、アヴァロン魔術学院の生徒の間ではとある噂で話題は持ちきりだった。
「ねぇ、リリィ聞いた!?この前、人が襲われた騒動って、この学院と関係あるらしいよ?」
そんな噂を耳にして、正義感の強いリリィは居ても立ってもいられず、そのヴァンパイアの洗脳を何とかしようととにかく急いだ。少し時間がかかりながらも城に着くと入り口で誰かと鉢合わせた。
「すいませーん!ヴァンパイアの長を探してるんですけど、どこにいるか知ってますか~?」
リリィは初めて会う人に対して臆することなく話しかけた。
「え・・っと、私も長に会いに行くところではあるのですが、こんなところに居ては危険なので引き返した方が良いと思いますよ。」シャルロットは忠告した。
「あ、今から行くんですね!?それなら、ついて行っちゃおー!っと。」
せっかくの忠告にも聞き耳持たずといった感じだ。
「・・では、私は失礼しますので。」
これ以上言っても無駄なようだと呆れながら、アリアのもとに向かった。
長い螺旋階段を駆け上がっていくと、一番頂にはアリアとアリスが待ち受けていた。
「あー!あなたがヴァンパイアの長でしょ?私が助けてあげるから安心してね!」
突如として、リリィは言い放った。
「こいつは誰よ!しかも急に何!?・・っていうか、その件なら」
「良いの、良いの、良いから私に任せて!」
説明しようとしたアリアの言葉に間髪入れずにリリィが割り込む。
どうやら洗脳されているのは、アリアだと完全に勘違いしているようだ。
「それで、あんたは何?」
もはやリリィは面倒な人物と判断して、シャルロットへと話の矛先を変える。
「私は勿論、戦いに来たんです。本当は討伐の命を受けているのですが、それよりも前々から貴女とは一戦してみたかったのでこの機会に是非手合わせをお願い致します。」
「どいつもこいつも面倒くさい奴らばっかりね。・・分かったわよ、纏めて相手してあげるから、いっぺんにかかってきなさい!」
”満月の夜に人が死ぬ”
いつしかこの村ではそのような噂が広まっていった。
そう噂される一端は、村には似つかわしくない程の大きさがある屋敷だ。
主である少女と十数人の使用人が住んでいるのだが、少女の両親は既に亡くなっており、他に身寄りもないため、使用人たちを家族同然として大切に思い、中でも側付きの使用人のリーリア=ローゼンクロイツには特別な想いがあるようだ。
リーリアは、聡明で戦術にも長けており、時折村に現れる魔獣から主や村の人々を守ってきた。
皆から信頼のおける存在とされて頼られているのであった。
「リーリア!今日もお庭で村の人たちとお話したいわ!」
「かしこまりましたお嬢様。では、お茶とお菓子をご用意致します。」
リーリアは、手慣れた様子で準備を始めた。
少女は、この村の人が本当に大好きで、度々庭園を開放しては集まってきた村人たちと他愛もない話をするのが楽しみであった。
「最近、物騒なことが減ったとはいえ、またいつ魔獣が襲ってくるか・・」とある村人の口をついた言葉に、少女は、「私、魔獣は嫌いなの凄く怖いわ・・。」と言って怯えてしまった。
すると、リーリアは論すように声を掛けた。
「お嬢様、何も怖いことなどありません。わたくしが側におりますので安心なさってください。」
リーリアの言葉を聞いて、少女はホッと胸を撫で下ろした。
~とある日の満月の夜~
森がざわついている。木々も、動物たちも・・。
やがて、こんな夜を待っていたかのように現れるのが、”白銀の豪剣”のシャロン=クロフォードだ。
シャロンは、知る人ぞ知る魔物ハンターで、この辺り一帯に現れる魔物を討伐することを生業としている。
また、この森に住む白い狼と赤いケープの獣耳少女は、森を脅かす根源を探していた。
「カノン!気を付けてねー!」
森の仲間がカノン=ベネットに声を掛けた。
森の奥目掛けてどんどん進むと、邪悪な気配の漂う場所には、身の丈よりも大きな鎌を持った薄紅色をした髪の女性が立っていた。
すると、カノンが来た方向とは別方向からシャロンが掛けつけ、鎌の女性を見るなり怪訝な顔付きで言った。
「リーリア・・?なんでアナタがここにいるのよ。」
「…。」
リーリアはその声に反応することなく、無表情でシャロンに鎌を振り下ろした。
シャロンは返答のないリーリアを見て、話にならない状況と冷静に判断し、即座に臨戦態勢をとった。
一方のカノンは、顔見知りであろう2人が戦い始めたことに少し驚いているようだった。
しかし、カノンは善悪で素直に捉える性格なので、シャロンに加勢してリーリアに立ち向かった。
暫くは勝負のつかない戦いを繰り広げられていたが、やがて体力を大きく消耗するとシャロンとカノンには疲労の色が見え始めた。
リーリアは一つも疲弊した様子も無く、技を繰り出されていく。
息つく間もない攻撃が、白い狼にあたりそうになったその時、シャロンやカノンの背後から光が矢の如く飛んできた。
その光はリーリアを包み込み、瞬く間に目の前から消滅した。
「アリシアちゃん!助けに来てくれたの!?・・ギリギリ助かった!」
カノンは光を放ったアリシア=ハートに声を掛けた。
「個人的に気になることがあり色々動いていたのですが、間に合って本当に良かったです。」
安堵したアリシアは、続けて口を開く。
「この者は本来在ってはならない禁忌に属する魔物です。私は "シャドウ" と名付けているのですが、独自の見解によると、この世に存在する生物の姿写し取って魔物を生成することが出来るようです。」
"シャドウ" ・・見慣れない言葉になかなか皆の理解が追い付かないが、アリシアは、目の前で起こっている事態の収拾を図るためには、まず今ある現状を受け入れていかに迅速に対応するかが重要だということを伝えた。
「シャドウそのものは倒していけばいいのですが、それだけではシャドウはまたすぐ現れてしまいます。ですから、大元を断つしかありません。その為に私も調査を重ねていますが、なかなか尻尾が掴めない状況です。」
「それで、どうするつもり・・?」
手がかりがほぼ皆無だと聞いて、シャロンは少し苛立っているが、アリシアは、そんな言葉も想定内だったようで、淡々と説明を続けた。
「これはまだ推測の域を出ない話ではありますが、個人的意見として申し上げると、今回のことは我がアヴァロン魔術学院内の者が大きく関わっているとみています。なので、そこから糸口を見つけるというのが得策だと考えています。」
「・・。」それを聞いても腑に落ちない様子のシャロンだが、その横でカノンは「とにかく面倒くさい感じなんだね~」と呑気なことを言い放った。
そんなこんなありつつも、行動しないとことには何も始まらないと、一先ずアヴァロン魔術学院へと歩みを進めていくアリシア・シャロン・カノンであった。
一方、とある満月の夜・・。
月夜に照らされながら、リーリアは物思いにふけっていた。
「どうして、私はこんな体質なの・・こんなことがしたいわけじゃないのに・・。もし、この事がお嬢様に知れたらもうお側にいることも叶わなくなってしまう・・。」
人間と吸血鬼のどちらともつかない自分がとても恨めしい。
何故、吸血をしてしまうのか、どうして皆と同じように生きられないのか、これまで何度も自問自答してきた。
しかし、答えが見つからない問いかけにリーリアは身も心も崩壊寸前だった。
その時、「ナニモ・・オソレナクテイイ・・」
突如として耳に飛び込んできた声に、自分が常軌を逸しているかと疑ってみたもののそこにいたのは紛れもなくこの世の者ではない死神の姿であった。
死神はそれ以上は何の言葉も発しないままリーリアをそっと闇で包み込み、リーリアは不思議と身を任せ、誘われるようにゆっくりと墜ちていった。
闇は徐々にリーリアの姿をも変化させていくと、そこから煙のように上がっていき、今度は空を覆い始めた。
その頃、村から少し離れたところに知る人ぞ知るとても趣がある神社があり、今日も日課の庭掃除をしようと巫女の月宮神楽が表に出てきた。
神楽は、すぐにいつもの見慣れた風景の中に不穏な違和感を覚えた。
・・遠くの雲行きがどうも怪しい。
「あの雲、とても邪悪な気を感じる・・何か良くないことが起きているかもしれない。」
直感的に祓う必要があると判断した神楽は、気の流れを頼りに先を急いだ。
悪い気はどんどん濃さを増していき、息苦しさすら感じるほどの悍ましさであるが、それでも神楽は臆することなく近付いていく。
神楽は、目と鼻の先に見えてきたその場所が悪気の根源であることを確信した。
そこには、オーラを纏った死神や闇の姿へと変貌したリーリアが居た。
「はじめまして、死神さん。お取込み中のところ恐縮ですが、私が祓う前にこの方を開放して去って頂けませんか。」
神楽はまず言葉で解決を図ろうと死神に話しかけてみるが、そう簡単に分かり合えるはずもないようだ。
「ジャマ・・スルナ。クルシンデタカラスクッテヤッタダケ。ソレノナニガワルイ。」
「それは人の弱みに付け込んだだけで、その方の本当に望んでいる事なんてあなたにはわかっていないと思います。ですから、その方は解放してあげてください。」
「クチデハナントデモイエル。トニカクジャマスルナラ、オマエヲケスコト・・カンタン」
話は一向に平行線だ。
「やはり話し合いだけでは埒が明きませんね。出来れば避けたかったのですが、仕方ないようですね。」
神楽は、覚悟を決めたように臨戦態勢をとった。
「オマエハ ムリョクダ、オモイレバイイ」
画して、巫女と死神の光と闇の戦いが始まるのであった。
光と闇が対峙する。ピリピリとした空気が流れる中、先に口を開いたのは、死神の方だった。
「ナンノタメニソコマデスル・・。オマエニトッテ・・コノタタカイニソコマデノイミガルノカ・・」
「私は困っている人が居たら助ける!それだ!むしろ人助けに意味を出そうという方がよっぽど意味が分からないと思いますけど」
交互に言葉を交わしては、それと同時に物理攻撃を仕掛けていく両者。
死神というだけあって、強力な力を感じるが、神楽からは日頃の鍛錬の成果なのか弱い心を感じ取ることが出来ず、死神に惑わされる隙はなさそうだ。
一方の神楽も除霊は得意だが、死神を霊と位置付けるには少々強引な気もするので除霊とまではいかないが
、悪霊退治と同じ要領で悪気は抑えられているようだ。
互いに隙らしい隙もなく続く攻防戦の中、「はい、そこ!ちょっと待ったー!」
とんでもない軽い掛け声のした方の虚無の空間から突如として人が現れた。
一瞬の出来事に神楽が少したじろいだ様子をみせたが、戦闘の集中は切らしていない。
そんな状況を意にも介さずアイラは言い放った。
「さっきから見ていたけど、あとは手短に済ませちゃいますか!」
「???」
神楽はアイラの放った言葉の意味を理解出来ていないが、お構いなしに話を続ける。
「要はこのまま消しちゃっても良いんだけど、選ぶチャンスくらいはあげようかな。今、私に消されるか・・おとなしくその人から離れるか・・死神さん的にはどっちがいいかな?」
「・・。」
ここまでの口数が嘘のように死神が静かだ。
アイラの気迫というのだろうか。
常人には感じ取れない何かがあるようだ・・
それもそのはず、時空を操れるだけでも特異だが、それを抜きにしてもアリアの力に匹敵する!と一部の者からは噂されている程の敵に回すと非常に厄介な人物。それがアイラ=ロザリーなのだ。
「キョウノトコロハ・・イイダロウ。ダガ・・コイツノヤミハキエテナイ。ジキニオレガヒツヨウニナルコトヲ・・ワスレルナ」
死神が去ると邪悪な気は消え、リーリアの姿は元の姿に戻っていた。
「さぁ、行こうか!」
アイラは、神楽とリーリアを半ば強引に巻き込む形で3人は時空の狭間へと消えていったのであった。
―アヴァロン魔術学院―
コンコンッ!
アリシアはいつもしているように扉を叩く。
こんな時にも礼を尽くすとは、さすが優等生というべきなのか・・
「こんなの蹴破ればいいのに。」
シャロンは、だいぶ低めの温度感だが、どんなやつが仕組んだのかはそれなりに興味があるようだ。
「・・はい。」
中からの返事を待ってから扉を開けると、そこには金髪の少女が落ち着いた様子で椅子に座って本に目を通している。
ルシア=シルヴェイラ。
彼女は、アリシアと肩を並べる程の才女でありながら学院内で見かけることはほぼなく、大半の時間は自室に篭っての研究に余念がないようだ。
そんな彼女を見て、 "やはり" と言いたげな表情でアリシアは呟いた。
「出来ればこの推測はただの憶測であって欲しかったのですが・・」
「あー、アリシア・・」
少女はちらっとこちらを見たかと思うと何事も無かったかのように本に視線を戻した。
「あなたの身勝手にどれだけの人や動物たちが犠牲になっていると思っているの!ポテトもいい迷惑よ!」
カノンは珍しく怒り口調で語気を強めた。
そんな勢いのカノンにルシアは不思議そうに答える。
「犠牲・・。そんなことを言っていたら魔術は進歩しない。研究するんだから仕方ない・・」
学院性として、魔術を学ぶ意欲は評価するに値するところだが、アリシアは憤慨している。
「そんなことで全て納得がいくとでもお思いなのですか?あなたからは教えて頂かないといけないことが山ほどあるので、ご同行願います。」
読み進めていた本を閉じて、ルシアは椅子から重い腰を上げてアリシアたちの方へ向き直った。
「止めたいなら・・勝負でもする?」
ルシアは、悪びれる様子もなく、ここにきて初めて敵意を向けた。
「相手は・・赤ずきんの子?それとも・・アリシア?」
ルシアに指名され、普段は温厚な性格のアリシアもルシアの横暴は目に余るので相手を買って出た。
「思い通りにはさせません!」
アリシアは詠唱を始め、ルシアがシャドウを生み出そうと手を出そうとした・・その時、
室内の時空に少し歪みが生じた感覚がした。
それは瞬きをするかしないかぐらいの間であったと思うが、次の瞬間にはアイラ・神楽・リーリアがそこにいた。
神楽とリーリアは何故、自分たちがこの場にいるのか考えが追い付かず、立ち尽くしている。
「時を制し者が告げる!」
ピタッと全ての音が止み、人の動作も感じられない空間・・。時が止まっている。
この空間で身動きが取れるのはアイラだけだ。
アイラは、「やっぱり私って強い!」と言いながら、ルシアを拘束し始めた。
造作もないことだ。一頻り準備が出来たところで時の流れを元に戻す。
「力の差というものを理解できた!?」
得意げなアイラに対し、ルシアは話も聞かず、独り言をぶつぶつ言っている。
「やりたいことは大体出来たし・・まぁ、いいか。」
この後、ルシアは連行され、聴取を受けることになる。
恐らく今まで起こったことに少しの罪悪感もなく、先ほどのアリシアとのやり取りが彼女の本音であり本質なのだろう・・
これといって新しい情報が得られるという気もしないがこれも形式に則った規則だから仕方ない。
この先、長く厳しい聴取となるであろうが、そんな状況に焦燥するどころか、ルシアは事の一部始終は、まるで全てが仕組まれているシナリオかのように微笑むのであった。
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